あるいは
トラックポイント愛好家なら、こんなことを一度は思いますよね。
そう考えた筆者は、ARCHISS Quattro TKLがトラックポイント+Happy Hacking Keyboard(HHKB)という快適な使い心地を実現しうるのか、実際に調査してみました。
同じようにARCHISS Quattro TKLを検討される方に、少しでもお役に立てれば幸いです。
ARCHISS Quattro TKL とは?

公式サイトでは下記のように説明されています。
筆記用具として、キーボードを追求するARCHISS(アーキス)のポインティングスティック搭載でマウス操作も可能なメカニカルキーボード、Quattroシリーズ。
Quattro - ARCHISS メカニカルキーボード | 株式会社アーキサイト
ドイツ CHERRY社製のCHERRY MXスイッチで、自分に合った打ち心地が選べます。
つまり、打鍵感の良い「メカニカルキーボード」と「ポインティングスティック」を搭載した、高級キーボードです。
このQuattroには、次の特徴があります。
- 配列は日本語JIS配列 / 英語US ANSI配列の2種類
- 静電容量式ポインティングスティック
- メカニカル
- テンキーレスキーボード
- 背面DIPスイッチなどで配列カスタマイズ可能
- 摩耗に強い昇華印刷のキートップ
- キーキャップの耐久性が高い
- CHERRY MXスイッチ搭載(茶/青/赤/静音赤)
詳しい仕様はメーカーサイトをご覧いただいた方が良いと思いますが、なかなかの高級キーボードです。
高級キーボードで有名なREALFORCEやHappy Hacking Keyboardなどとは、また一線を画す個性的なブランドですね。
ちなみに、筆者が購入したのは茶軸でした。
どうせならと思って打鍵感の良さを優先してみました。
Quattroのトラックポイントは静音容量式ポインティングスティックと呼ぶ必要があるようです。
恐らく特許か商標の問題があるのだろうと推測しております。
当記事では「Quattroのトラックポイントデバイス」は、ポインティングスティックと呼ぶことにします。
比較対象のトラックポイントキーボードは?
これまでに10年以上使ってきたトラックポイントキーボードは、レノボ ThinkPad USB トラックポイントキーボード55Y9024です。(既に生産終了)
Bluetoothモデルも併用しており、USB-A有線が必須な点は課題です。
しかし、配列やパームレスト、何よりトラックポイントの使いやすさが素晴らしく、なかなか手放せないのが実状です。
このキーボードを越えるトラックポイントキーボードを探すのが、筆者の目下の課題です。
手持ちのトラックポイントキーボードのうち、現役の2台とQuattroを並べてみました。

サイズ感の違いはけっこう大きいですね。
ARCHISS Quattro TKLを使ってみて分かったこと
実際に届いてから1週間以上かけて、公私共々で30時間以上使い込んでみました。
その結果、メーカーサイトのカタログスペックやメディア記事のレビューではわからない真実がたくさん見えてきました。
この記事では、トラックポイントキーボード愛好家として率直な感想を述べたいと思います。
良かったところ
キータッチがとにかく気持ちいい
CHERRY MX 茶軸を選んだこともありますが、とにかくキー入力の気持ちよさは素晴らしいです。
実際に使ってみるまで分かりませんでしたが、キーの押し込みの深さと押し込んだときにカチッと音がするスイッチ感が気持ち良いのです。
このキー入力の気持ちよさは、Thinkpadトラックポイントキーボードでは得られない体験です。
REALFORCEやHappy Hacking Keyboardを愛用する方々の気持ちが少し理解できました。
ポインティングスティックがスムーズに動作する
これまでLenovo以外のトラックポイント互換デバイスも触ってきましたが、感度がイマイチで愛用できませんでした。
しかし、Quattroのポインティングスティックは感度がすごく良いです。
純正トラックポイントとほぼ違和感がないのです。
上下左右の移動はスムーズに移動することができます。
ごく稀に一方向に勝手に動きつづけてしまう「オートムービング」まで一緒(笑)
そんなわけでカーソル移動については、トラックポイントキーボード愛好家は違和感なく移行することができます。
キーカスタマイズが簡単
純正トラックポイントキーボードと異なるのは、いくつかのキーをカスタマイズできる点です。
筆者は日本語JIS配列を愛用しているものの、Aキーの横の左のCapsLockキーは、必ずCtrlキーじゃないと困ってしまうVim/Emacsユーザーです。
Quattroはこのようなキーカスタマイズを、背面DIPスイッチとキーキャップを変更することで実現できるわけです。
筆者好みにカスタマイズしたキー配列はコチラです。
左上の赤いキーは特徴的で、ESCキーに変更せずにそのまま使っています。
こういうキーボードのカスタマイズは最近の流行りですし、やはり使い勝手を追求するなら実施できると嬉しいですよね。
ちなみに、足もかなり重厚感とクッションがあって、ちょっとやそっとではズレたりしなそうな安定感があってよいですね。

イマイチなところ
トラックポイントを片手では使いにくい
このキーボードを使うなら、次のような3パターンでの使い方になります。
ボタン | 右手パターン | 左手パターン | 両手パターン |
---|---|---|---|
トラックポイント | 右手 人差し指 | 左手人差し指 | 右手 人差し指 |
左クリックボタン | 右手 親指 | 左手 小指 | 左手 親指 |
右クリックボタン | 右手 薬指 | 左手 親指(兼用) | 右手 親指 |
スクロールボタン | 右手 小指 | 左手 親指(兼用) | 右手 小指 |
最初にQuattro TKLを使って感じることがあります。
トラックポイントが片手操作できない
この点だけで、これまで良かった点が全て台無しと言っても過言ではありません。
公式サイトにも載っていますが、そもそも右手だけで操作するには無理があります。

ポインティングスティックと左クリックボタンだけならまだ許せます。
しかし、右クリックボタンとスクロールを実行するためのFnキーの位置が無理。

右手の全指を駆使できる指先が器用なユーザー向けのトラックポイントと言わざるを得ません。
いや、むしろ片手で使うことを拒否すらしているかのような配置です。
メーカーとしては両手操作を推奨したいのかもしれません。
それにしたって右ボタンとスクロールボタンの位置がイマイチ過ぎる!残念すぎる!
恐らくトラックポイントキーボード愛好家がARCHISITE社には居なかったか、トラックポイントキーボード愛好家をターゲットにしていない商品なのでしょう。
あるいはThinkpadトラックポイントキーボードの特許を回避するには仕方なかったのかも。
しかし、期待値が高かっただけに残念でなりません。
キーボード+マウス+ポインティングスティックのバランスに違和感
ENTERキーの左側に矢印ほかのキーが来る分、Thinkpadトラックポイントキーボードと置き位置が変わってきます。

そうなるとポインティングスティックがキーボードの中心ではなく、左側に位置します。
もしポインティングスティックを身体の真ん中に持ってくると、キーボード右に置いたマウスが遠くなります。

マウスを使わない選択肢もありますが、ポインティングスティックに違和感がある以上、マウスを使う頻度が増えてしまうのですが、なんだか遠く感じて煩わしいのです…
恐らく半年くらい使い込めば慣れてくるとは思いますが、移行一週間くらいでポインティングスティックを使う頻度が減り、マウスを使うが故に作業スピードが落ちるという悪循環に陥りました。
トラックポイントキーボード愛好家は、ホームポジションとポイティングデバイス操作との切替移動が無いことの重要度が高いのです。
その上で、ポインティングは片手でできるから最高だ!という感じでしょう。
マウスを持つための手の移動が煩わしさを解消しつつ、モバイルにも強いのが特徴です。
Quattroは残念ながら、これらのアドバンテージを生かせていないと言わざるを得ません。
横方向にスクロールできない
Fnキーを使った垂直スクロールは実現できておきながら、水平スクロール動作には未対応です。
これもトラックポイントキーボード愛好家としては、手痛いポイントです。
水平スクロールの活躍場面が少ないでしょって?
バカ言っちゃいけません。
Excelなどのスプレッドシート操作には必要不可欠!
Photoshopやillustratorのようなキャンバスを上下左右に移動するアプリケーションにだって欲しい。
筆者は Fusion 360でだって横スクロールで拡大縮小くらいには使います。
そして、TweetDeckやTheDeskなど、複数アカウントとしたSNSクライアントでも必須です。
このQuattroは、こういう操作に惜しげも無く資金を投下するヘビーユーザーをターゲットにしているんではないのでしょうか。
水平スクロール動作が不要なユーザーはQuattroのような高級キーボードに手を出しません。
そういう意味では、キーカスタマイズやUSB Nキーロールオーバー対応よりも、水平スクロールの実装を優先すべきだったはずだ!と筆者は声を大にして言いたいですね。
キー配列に慣れが必要
Quattroは通常のQWERTY配列のキーボードで、次の2配列が用意されています。
- 日本語JIS配列
- 英語US ANSI配列
少なくとも英数字やSHIFT、CTRLキーなどを使う分には違和感がありません。
しかし、次のキー配置はかなり違和感があります。
- ファンクションキーの配列
- ESCキー
- PrintScreenやHomeなどの特殊キー
- 矢印キー
違和感を感じる順に並べてみましたが、特に1は深刻です。
日本語変換を多用する我々日本人にとって、F6~F10の利用率は高く、その位置は重要ですよね。
また、F2などExcelなどで多用するキーもありますが、この位置がThinkpadトラックポイントキーボードとはかなり場所が異なります。

問題なのはホームポジションからのファンクションキーの距離が大きく違う点です。
F1キーで誤ってヘルプを開いてしまうなどの問題が、一日に数十回は発生しています。
つまり、Thinkpadトラックポイントキーボードの位置とは明らかに違うため、押し間違いが頻発してしまうのです。
これはもう構造上、どうしようも無いです。変更だってできません。
これはもう耐えて耐えて、慣れるしかないのです。
ただ、長年のThinkpadトラックポイントキーボード愛好家には、高い壁になりえますよよね。
パームレスト必須
薄型のキーボードと違い、Quattro は高さ(厚み)が結構あります。
そのため、パームレストのない薄型キーボードから移行するにはかなり違和感があります。
その高さにストレスを覚えるほどだったため、筆者は3Dプリンタで自作のパームレストを作って設置しました。こんな感じ。

REALFORCEやHHKB(Happy Hacking Keyboard)もそうですが、打鍵感の良さを求めるキーボードは得てして厚みが必要になるのは仕方ないですよね。
ただ、Thinkpadトラックポイントキーボードから移行される方は、かなりの違和感があります。
筆者個人の印象では、ほぼパームレスト必須と考えた方が良さそうです。
このイマイチポイントはパームレストを用意すれば解決しますから、まだ軽いもんです。
非常に重たいUSBキーボード
Quattroは、持ち運びはまったく想定していないであろう重さと作りです。
なんせケーブル除いた重量で975g。ほぼ1Kgです。
まず持ち歩こうとは思えない重さです。ディスプレイ前の移動でさえ億劫なレベルです。
しかも有線キーボードで、Bluetoothや専用ドングルに未対応。
おまけにイマドキ USB A ⇔ Mini B ケーブル専用で、USB-C未対応です。

そのため、USB-Cハブを噛ませないとiPad ProやMacとは接続して利用することができません。
せめてUSB-Cのデイジーチェーン対応してくれてさえいれば、他の不満点も我慢できたかもしれませんでしたね…
誰がARCHISS Quattro TKLを使うべきか
長年のThinkPadトラックポイントキーボード愛好家が、Quattroへ乗り換えるにはかなりハードルが高いと言わざるを得ません。
つまり、Quattroはトラックポイントユーザーに向かないのです。
そうするとQuattroは誰向けなのか、疑問が残ります。
ARCHISITE社のうたい文句と、筆者が実際に使ってみた印象から下記のユーザー向けのデバイスだと考えられます。
- 両手操作でトラックポイントを使うのが苦ではない人
- トラックポイントがおまけに付いた、キータッチの良いキーボードを使いたい人
- トラックポイントの使用頻度が多くない人
- マウスでのポインティングを中心にしたい人
- トラックポイントキーボードよりも重厚感や高級感が欲しい人
あながち悪い話ではなく、トラブル時やちょっとしたタイミングだけトラックポイントを使いたいユーザーにとっては良い選択とも言えます。
上記の5項目のいずれかに該当する人には、ARCHISS Quattro TKLは良いキーボードですから、手に入れて損はありません。

一方、トラックポイントキーボードのヘビーユーザーは購入すべきではないと考えます。
残念ながら、トラックポイントのボタン部分が違い過ぎて、移行することが苦痛に感じてしまいます。
キータッチなど良い点も多いだけに、トラックポイントの操作しにくさやキー配列の差分が大きなストレスを生むことが分かりました。
そのため、1週間で筆者はQuattroの使用(移行)を断念する結果となってしまいました。
もしトラックポイントキーボードからのスムーズな移行を求めるなら、悪いことは言いませんから素直にこちらのトラックポイントキーボードを購入しましょう。

筆者は、最初からこちらを購入すれば良かったと後悔した結果となってしまいました…
誤解の無いようにお伝えしますが、「ARCHISITE Quattro TKLはThinkPadトラックポイントキーボードと互換性が高い」なんてことは、一切うたわれていません。そのため、あくまで別モノのキーボードとして発売されているため、メーカーにクレームの入れるのは筋違いだという点は理解しておく必要があります。
また、筆者も「すぐに転売してやる!」と最初は思いましたが、水平スクロール動作にファームウェア/ドライバのアップデートで対応してくれることを期待して、セカンドキーボードとして保有しておきたいと思います。できれば、有償オプションでBluetooth対応などしてくれると追加投資してしまうかなと思います。ニッチな製品だから難しいでしょうけど。
最後まで読んでいただいて、誠にありがとうございました。