ひょんなことから話題のライブプロダクションスイッチャー ATEM mini を手に入れてしまいました。Pro / ISO ではなく、無印。

コロナウイルスで外出自粛の2020年4月以降、YouTube配信者はもちろん、ZoomやTeamsを使った講義や配信が急増しました。
その結果、プロ/アマ問わず、複数のカメラを切り替えられる安価な機材ということで、ATEM miniはかなりの人気機材となりました。
匠とて例外に漏れず、実際にYouTube配信はもちろん、仕事でのZoomミーティングやWebinerにも使用してみました。
その結果、個人でATEM miniを買ってはいけないとの結論に達しました。
この経験に基づいて、ATEM miniを手に入れる決心がつかない個人ユーザー(ビジネスマン/プライベート含む)のために、不要だと感じた実感をご紹介します。
誤って高い出費をしてしまわないように、それぞれの検討材料になれば幸いです。
なお、先に前向きな意見から知りたい方はこちらをご覧下さい。
ATEM mini とは?
Blackmagic design社から販売されているライブプロダクションスイッチャーです。
上記のサイトの紹介文では、下記のとおりです。
高度な放送用機能で低価格のマルチカム・ライブプロダクションを実現
ATEM Miniスイッチャーを使用すると、プロフェッショナルなマルチカム・プロダクションを簡単に作成して、YouTubeのライブ配信や、SkypeやZoomを使った革新的なプレゼンテーションを実現できます!ATEM Miniを接続するだけで、4台の高品質ビデオカメラの入力を、さらに優れた画質でライブ切り替えできます。また、コンピューターに接続してPowerPointスライドを使用したり、ゲーム機を接続することも可能。内蔵DVEを使用するエキサイティングなピクチャー・イン・ピクチャー・エフェクトは、コメンテーターを挿入するのに最適で、他にも多くのビデオエフェクトが使用可能です。ATEM Miniの全モデルは、ウェブカムと同様に機能するUSB出力を搭載しているので、あらゆる配信ソフトウェアに接続できます。ATEM Mini Proはライブ配信に対応しており、USBディスクへの収録が可能です。ATEM Miniは、プロフェッショナルな放送用の機能を多数搭載しているので、ハイエンドの作業が可能です!
うん、長い(笑)
というわけで、主な特徴をかいつまむと以下の通り。
- フルHDの撮影機材などをHDMI端子で4口まで入力可能
- ライブ切り替えが可能(スイッチャー&トランジション)
- ピクチャー・イン・ピクチャーをエフェクト付きで実行可能
- USB Type-C入力
- 専用ソフトを使って LAN経由で制御可能 など
スイッチャーですから、基本的にHDMI入力を切り替えてHDMI出力する装置と考えて支障ありません。
ピカピカ赤白にランプが光って、操作が分かり易いというのも利点としてはあると思います。先程の画像を見てみると一目瞭然です。

上位機種の ATEM mini Pro ではUSBメディアに直接保存、単体でのYouTube Live配信、マルチビューなんかに対応します。さらに最上位機種のATEM mini Pro ISOは5入力を同時保存したり、DaVici Resolveとの連携強化など、プロユースには魅力的な機能が詰め込まれています。
もしご存じない方は、以下のYouTuberさんたちの動画をご覧になると良いでしょう。
ATEM miniを買ってはいけない、その理由とは?
この大人気のATEM miniですが、実際に1週間しっかり使いこんでみた結果、個人ユーザーには必要ないとの結論に至りましたす。
その具体的な理由について、実体験に基づいてご紹介したいと思います。
なお、この記事では入門機種(最下位機種)のATEM miniのみ対象とします。ATEM mini Pro/ATEM mini Pro ISOは必ずしも当てはまらない点はご注意ください。
スイッチャーが必要か?
そもそもですが、そんなにスイッチングしたい?
複数の入力デバイスが必要なんですよ。カメラそんなに沢山持ってる?ウインドウと自撮りの切替くらいじゃないの?
この機器はスイッチャーなんですから、リアルタイムにスイッチングしたい要件がなければ不要なんですよね、これが。
動画の切替なんて編集すれば良いんですよ。
機材をセッティングしてる時間を編集に充てれば実現できてしまいませんか?
ここが一番重要な検討ポイントですから、よく考えましょう。
匠には、そんな要件は無かった…(涙)
価格の高騰
ATEM mini の販売価格は、米国で$295(税抜)、日本では標準価格 35,980円(税抜)です。
しかし、コロナウイルス騒動によって配信需要が急増したことを受けて、供給不足から価格が高騰しています。

大手ECサイトはもちろん、メルカリやヤフオクなどでも高額での転売が横行しています。
いわゆる転売ヤーの対象になっている製品です。
この記事を執筆する2020年8月時点では気軽に購入するような時期でないと考えたほうが良いでしょう。
実際に購入する時期は、もう少し価格が正常になるまで待ちましょう。
後述しますが、同じ費用をかけるなら 中古ラップトップとUSBハブ、安価なキャプチャーデバイスを複数購入した方がコストパフォーマンスは良いかも知れません。
ちなみに、匠は標準価格で手に入れたものの、4ヶ月も待つ羽目になりました。長かった…
OBS Studioで代用できる
YouTubeやTwitchで配信をしようとした場合、OBS Studioとの併用が必要です。
ビデオ録画と生放送用の無料でオープンソースのソフトウェア。
Open Broadcaster Software®️ | OBS
OBS Studio(以下、OBS)は、録画と配信のための非常に高機能なソフトウェアです。
オープンソースながら多機能であるため、配信用ソフトウェアとして高い人気を誇っています。
他にも、ウインドウなどを録画する用途でも便利なソフトウェアです。
このOBSには、主に次の機能が備わっています。
- YouTube/Twitchなどへ動画配信
- 指定したレイアウトでの録画(≒ピクチャー・イン・ピクチャー)
- ウインドウ/カメラ/音声入力など複数の入力ソースを操作可能(解像度の制限無し)
- リアルタイムでの映像/音声のキャプチャーとミキシング
- トランジションを用いたシーン切替
- 映像ソース/音楽ソースへのフィルタ(エフェクト)適用
- VSTプラグインサポート
- スタジオモードで切り替え前の画面プレビュー
上の赤字の配信ソフトウェアとして利用することが多いのですが、実は青字のような機能があるのが便利と言われています。
この青字の機能ですが、ATEM miniの機能を代用することができるわけです。つまり…
- [OBS] シーン切替 = [ATEM mini] 入力ソースのスイッチング
- [OBS] トランジション = [ATEM mini] トランジション
- [OBS] 画面レイアウト = [ATEM mini] ピクチャー・イン・ピクチャー
こんな感じに代用できますね。例えば、次のようにスイッチングすることが可能です。
さらに、スタジオモードを使えばスイッチングの自由度は高まります。
もちろん工夫次第では、ATEM mini よりも自由度が高いスイッチングができるわけです。その上、録画まで実行できてしまいます。
もちろんOBSを実行するパソコンには、HDMI入力できるキャプチャーデバイスを必要な数だけ用意する必要があります。
しかし、フルHD(1080p)が最大解像度のATEM mini と違って、次のようなキャプチャーデバイスを利用しさえすれば4Kなどの高解像で入力することも可能です。

こちらは匠も保有してますが、コンパクトで便利です。
これを必要な数だけ挿すのも手ですが、高価過ぎて本末転倒になってしまいます。
そこで、廉価なフルHD対応キャプチャーデバイスで充分という使い方もありまして、こちらなら3~4つくらい買っても1万円ちょい。遅延が気にならないならアリです。
[amazon asin="B08CSCYJHY" kw="2020最新版 HD HDMI キャプチャーボード USB2.0 1080P HDMI ゲームキャプチャー、 ビデオキャプチャカード ゲーム実況生配信、画面共有、録画、医用撮像、ライブ会議に適用 Nintendo Switch、Xbox One、OBS Studio対応 電源不要"]
いずれにせよ、USBハブとキャプチャーデバイスを必要なだけ揃えれば、充分に代用可能なわけです。
つまり、OBSで工夫すればATEM miniより安価に済むわけです。格段に。(PC費用含まず)
これが個人ユーザーでは、最もATEM miniを買うべきでないといえる理由だと考えています。
ATEM miniのスペックに問題あり
ATEM mini は高性能なスイッチャーであることは間違いありません。
しかし、実際に使ってみると少しイマイチだなと思うことが、いくつかスペック面でもありました。
- 直接配信はできない
- 入力ソースは4K非対応
- USB給電ではない
- XLRプラグやフォーンプラグは非対応で、マイク入力にはほぼオーディオインターフェース必須
1はまだ許せますよ、OBSを使うのは仕方ない。
2もまだ主流ではないので良いです。いや、画質こだわりたいけど。
3はモバイルを考えるなら致命的です。確実にコンセントが届く範囲での作業を強いられます。
また、4はコンデンサーマイクやダイナミックマイクが直接挿せないのは大きいです。
そうなると別にオーディオインターフェースや変換ケーブルを噛まさないといけないわけで、結局PC側でやった方が良い、となるわけです。コンデンサーマイクではまずあり得ない。48V非対応ですし。
ただ、次のようなミニステレオジャックに対応するマイクをお持ちなら問題ないかもしれないですけどね。

つまり、ATEM mini側でスイッチングするよりも、OBS側でスイッチングした方が良かったりするわけです。
もちろん、OBSは音声のスイッチングも可能です。
こうやってスペックを考えていくと、やはりATEM miniはPCに依存する機材ということが見えてきてしまいます。そうなると、OBSがあれば(以下略
iPad + ATEM mini ならどうか?
ここまで読んでいただくと、ATEM mini が本当に必要なのか、かなり怪しいことを理解していただけたはずです。残念ながら。
ふと iPad / iPad Pro + ATEM mini で使えたりすると、PC1台しかない場合には負荷分散の意味では使えるのでは?と思いますよね。
しかし、残念ながら ATEM mini は iOSに対応していません。こちらの動画をご覧ください。
残念ながら認識してくれません。いえ、認識してくれたとしても、YouTubeなどに配信するにはどのアプリを使えば良いのかわからないという点で厳しいわけです。
つまり、OBSが使えないタブレット端末で利用できるかというと、そういうわけでもないわけです。
タブレット端末と連携できるなら、まだ利用価値が高い!と言えたりしたんですがね。
とはいえ、上位機種の ATEM mini Pro と TouchDirector という有料アプリであれば実現できるようです。

実現方法は、こちらの記事が詳しいので興味がある方はご覧ください。
結論:ATEM mini である必要が無い
そんなわけで、せっかく手に入れた ATEM mini ですが、実際に利用した結果では匠にとっては利用価値が低いため、残念ながら購入して失敗だったと言わざるを得ません。
しかし、これは事前に機能と使い方、OBS Studioの理解が浅かったことが理由であって、決して製品が悪いとは言い切れません。映像/音声インターフェースと見た場合には、次の入出力の多さは魅力です。
- 入力:HDMI x 4、3.5mmステレオミニジャック x2
- 出力:HDMI x 1、
制御:USB Type-c x 1(Webカメラ出力含む)、Ethernet(LAN)
これが仕事で利用するのであれば、接続の煩雑さを削減できる強みは充分購入理由になります。ネットワーク対応やパススルーでモニタリングできるのも良いでしょう。
定期的に Webiner配信したりするなら、かなりの戦力になるのは間違いありません。
ただ、個人で必要か?あるいは費用対効果は?、上位機種にすべきでは?という観点でいうとイマイチではないかと思います。
つまり、興味本位や低価格さで購入する位ならOBS使え!というわけです。
ATEM mini を買うべきユーザーとは?
それでも ATEM mini を買うことをオススメできるユーザーというのは存在します。そちらは下記の記事にまとめました。
ATEM mini 購入が諦めきれない読者は、上記をご一読いただければと思います。
最後まで読んでいただいて、誠にありがとうございました。